【業界研究】鉄鋼業界の現状・課題と今後の展望

2023/07/18
業界の仕事内容
鉄鋼業界
インフラ業界
目次
1.
鉄鋼業界とは?
2.
‌‌鉄鋼業界の基礎知識
3.
日本の主要鉄鋼業企業
4.
鉄鋼業界の構造
5.
鉄鋼業界の展望
6.
鉄鋼業界の展望
7.
‌鉄鋼業界についてさらに理解を深めたい方へ
8.
‌鉄鋼メーカーについて知ろう

鉄鋼業界とは?

「鉄は国家なり」という言葉を聞いたことはありますか?国家の発展に鉄が必要不可欠であることを意味する言葉です。かつては鉄の生産量が国内経済のバロメーターとして用いられたこともありました。

‌鉄は人類が先史時代から用いてきた金属ですが、その耐久性と加工のしやすさから、今もなお我々の生活と密接に関わっています。そして、技術的に新たな発展の余地を残している金属でもあります。

‌この記事では、鉄鋼業界の現状や課題、さらには今後の展望について説明します。記事を読んでキャリア選択の参考にしてみてください。

‌‌鉄鋼業界の基礎知識

まず、鉄鋼業界の基礎知識を解説します。

日本の鉄鋼業界の動向

2021年の鉄鋼生産量は、新型コロナの影響による落ち込みから緩やかな回復傾向を見せています。
特に建築や製造業を中心に鉄鋼需要が回復しつつあり、生産量が拡大しました。
アジアへの鉄鋼の輸出割合が大きく、2021年の輸出先ランキングは1位タイ、2位韓国、3位米国となってます。

世界の粗鋼生産量の推移

以下のグラフの通り、2021年の世界の粗鋼生産量は、前年比3.8%増の19.5億トンでした。

世界の鉄鋼の5割を中国が担っている一方で、日本は2018年にインドに抜かれ3位についている状況です。

日本の鉄鋼業界は、他国に後れを取っている状況に見えますが、機能性の高いハイテンという鋼材の生産を得意としています。

ハイテンは軽量で加工がしやすく、自動車需要が高まっている鋼材です。

ハイテンの製造ような最新のテクノロジーによって日本の鉄鋼業界は支えられています。

世界の鉄鋼生産量の推移

市場規模

鉄鋼メーカーの国内市場規模は10兆5230億円です(2022年)。

今後5年間で1.61%成長し、10兆6,926億円に達すると推定されています。

日本の主要鉄鋼業企業

日本の鉄鋼業界の全体像をつかんだところで、実際にどのような企業があるかについて解説します。

ここでは
①売り上げ
②平均年収
の2つの観点から代表的な企業をご紹介します。
※当ランキングは企業の2021年度の有価証券報告書または公開資料に基づき掲載しています。

鉄鋼業界売り上げトップ5

日本の鉄鋼業界の売り上げトップ5は以下の通りです。

‌1位 日本製鉄株式会社 68,088億円

日本製鉄株式会社は、新日本製鉄と住友金属が統合して誕生した日本最大手の鉄鋼メーカーです。
世界では粗鋼生産量において、宝武鋼鉄集団、アルセロール・ミッタルに次ぐ世界第3位の規模を誇っています。

2位 JFEスチール株式会社 43,651億円

JFEスチール株式会社は、2003年に川崎製鉄と日本鋼管 が統合して発足した、JSEホールディングスの中核企業です。
世界最大の規模の西日本製鉄所を有しており、最大の規模と技術力を生かした高品質の製品が強みです。

3位 KOBELCO 神戸製鋼 20,825億円

 KOBELCO 神戸製鋼は、素材・機械・電力を3本柱として設定しています。
大手鉄鋼メーカーの中では最も鉄鋼事業の比率が低く、多角的な経営が特徴的です。

4位 株式会社プロテリアル 9,427億円

株式会社プロテリアルは、日立製作所の全額出資により成立した企業です。
2022年に日立グループから売却され、社名を日立金属から株式会社プロテリアルに変更しました。
技術トレンドに対応した最先端の製品開発が強みです。

5位 大同特殊鋼株式会社 5,296億円

大同特殊鋼株式会社は、「特殊鋼」という自動車、産業機械、航空宇宙など、さまざまな産業で利用される素材の大手メーカーです。
特殊鋼製造では国内トップクラスのシェアをもっています。
ステンレスの床

平均年収トップ企業5選

日本の鉄鋼業界の平均年収トップ5は以下の通りです。

‌1位 JFEスチール株式会社 959万円

JFEスチール株式会社については、先述の内容を参考にしてみてください。

2位 大和工業株式会社 794万円

大和工業株式会社は電炉メーカーの海外展開のパイオニアです。

海外事業に注力しており、米国、東南アジアの事業が大変大きな利益を生み出しています。

3位 新報国マテリアル株式会社 764万円


新報国マテリアル株式会社は総合金属材料メーカー、低熱膨張合金のトップメーカーです。

従業員100人規模と小さいながらも、10名の研究職を擁しており、研究開発に力を入れています。

4位  株式会社栗本鐵工所 704万円

株式会社栗本鐵工所は明治42年に創業し、長い歴史を持った企業です。

デザインから量産まで一括提供できる仕組みを持っていることが強みです。

5位 株式会社エンビプロ・ホールディングス 703万円


株式会社エンビプロ・ホールディングスは、静岡県を中心に国内12カ所、UAE、チリ、ウガンダに海外現地法人を設けています。

グローバル展開が、株式会社エンビプロ・ホールディングスの強みです。

鉄鋼業界の構造

鉄鋼業界は鉄鋼製品を製造する鉄鋼メーカーと製造された鉄鋼製品の流通を担う商社で構成されています。鉄鋼メーカーで製造された製品は商社に卸され、そこから顧客のもとへ届けられるのです。

鉄鋼は様々な産業で必要となるため、顧客は自動車業界から建築業界など多岐にわたります。製品が顧客に届くまでの過程で、それぞれの会社がどのような役割を果たしているのか見ていきましょう。

鉄鋼業界の構造

(1)鉄鋼メーカー

鉄鋼を生産するのが鉄鋼メーカーです。鉄鋼メーカーは高炉メーカー電炉メーカーに大別されます。以下では非常に簡略化した形ではありますが、高炉メーカーと電炉メーカーの違いを説明していきます。

高炉メーカー

高炉メーカーは高炉、また転炉と呼ばれる設備を用いて鉄鉱石石炭から鉄鋼を生産。さらに加工まで行って製品を製造する一貫工程を採用している鉄鋼メーカーです。

‌製鉄においては主要作業を1つの工場に集約することで効率が上がります。1つの場所に集約するためには莫大な設備、そして資本が必要です。現在、日本における高炉メーカーは業界最大手の日本製鐵。そしてJFEスチール神戸製鋼のみとなっています。

‌日本における鉄鋼製品シェア約80%は高炉メーカーによって占められており、業界における影響力も絶大です。しかし、中国やインドといった新興国の参入により国際的な競争が激化。かつては生産量で世界一を誇っていた日本企業も首位の座を奪われました。

‌そのような国際的な流れの中で業界の再編が求められ、業界1位だった新日本製鉄と3位の住友金属工業が合併。そうして誕生した新日鐵住金が改名したのが現在の日本製鐵です。
安価な鉄鋼が世界市場を席巻するなかで、日本企業は再編によって量を確保するほか、海外企業では生み出せない高い品質で対抗しています。

【代表企業的な高炉メーカー】
日本製鐵、JFEスチール、神戸製鋼

電炉メーカー

電炉メーカーは電気炉を用いてくず鉄を溶かし、成分を調整して鉄鋼を生産します。そのため、くず鉄が多く発生する先進国で発展しやすい傾向にあり、アメリカの鉄鋼メーカー最大手は電炉専業です。

‌また電炉はくず鉄を原料とするため、鉄鉱石から鉄を生産する高炉に比して二酸化炭素の排出量を抑制することが可能です。近年、環境問題に対して国際的に協調して解決が進められているなかで、二酸化炭素の排出を抑えられることは大きな強みになる可能性を秘めています。

‌品質の面に関しても、かつては高炉から製造された製品に劣るとされてきましたが、近年では技術の進歩により高品質な製品をつくることが可能になってきました。
しかし再編が進む高炉メーカに対し、日本の電炉メーカーの再編は進んでいません。小規模な会社が林立している現状では、国際的な競争に打ち勝てないという見方がある中で、今後合併が進んでいく可能性が高くなっています。

【代表企業】
JFE条鋼、共英製鋼、東京製鐵、合同製鐵、大阪製鐵

(2)商社

鉄鋼メーカーが生産した鉄鋼を流通させるのが、商社の基本的な役割です。しかし、それ以外にも金融機能から加工に至るまで、様々な役割を担い、鉄鋼業界における役割は非常に大きくなっています。

‌以下では属性に基づき、鉄鋼を扱う商社を分類しました。それぞれが果たす役割を認識して理解を深めてください。

総合商社

学生から非常に高い人気を誇る総合商社。総合商社の中には金属部門で鉄鋼を扱う会社があります。しかしながら、鉄鋼部門を切り離して独立させていたり、あるいは事業の移管を進めている企業もあり、総合商社を通じて鉄鋼に関わりたい人は注意が必要です。

【代表的な総合商社】
三井物産、住友商事、豊田通商

総合商社系鉄鋼商社

総合商社系鉄鋼商社は文字通り、総合商社の鉄鋼部門を母体に成立した専門商社です。
先述の通り、総合商社のうちいくつかの会社は鉄鋼部門を独立させたうえで合併し、鉄鋼を扱う専門商社を設立しました。母体の総合商社が持っているネットワークを駆使して、販売から金融、市場開拓、そして事業投資まで担います。

【代表的な総合商社系鉄鋼商社】
メタルワン(三菱商事と双日が出資)、伊藤忠丸紅鉄鋼(伊藤忠と丸紅が出資)、住商グローバルメタルズ(住友商事から分離独立)

独立系鉄鋼商社

独立系は総合商社を母体としない専門商社のことを指し、それぞれ独自の社風とコネクションを持っています。独立系鉄鋼商社は国内での販売をメイン事業に据えており、海外での投資事業を行っている総合商社系の会社に比べてリスクが小さいのも特徴です。

‌【代表的な独立系鉄鋼商社】
阪和興業、岡谷鋼機

メーカー系専門商社

‌鉄鋼メーカーを母体とした商社がメーカー系商社です。母体となる鉄鋼メーカーの製品のほか、他社の製品を扱う場合もあります。
総合商社系の会社同様、幅広く海外展開を行い投資に参加する企業も出てきています。

‌【代表的なメーカー系専門商社】
日鉄物産(日本製鐵のグループ会社)、JFE商事(JFEホールディングスのグループ会社)

鉄鋼業界の職種

一口に鉄鋼業界といっても様々な職種があり、仕事内容には大きな違いがあります。

代表的な職種を以下に掲載していますので、自分が鉄鋼業界でどのような仕事をしたいのか考える際に参考にしてください。

研究開発

研究開発職では、鉄鋼商品開発、プロセス開発、利用・基盤技術開発を行います。

最先端技術の研究開発を担い、海外の研究競争に打ち勝っていくことはとても難しいですが、大きなやりがいがあるでしょう。

生産(生産管理・品質管理)

生産管理では、製品生産のためのスケジュール作成、進捗管理、納期対応などスムーズな生産のための業務を手掛けます。

品質管理では生産した製品のテストや品質確認を行います。
社内のすべての職種の人と連携をとる必要があるため、高いコミュニケーション能力が求められる仕事です。

営業(国内営業、海外営業)

営業職種は市場のニーズを分析し、新しい取引先の開拓を目指す仕事です。
自社の製品の性能や、供給状態に責任を持つことも仕事の1つになります。

営業の中にも国内営業と輸出営業の2つの職種があり、海外志向が高い就活生はぜひ海外営業に挑戦してみてください。

調達

鉄鋼生産のための原材料を各地から調達する仕事です。

資材を調達できなければ生産がストップしてしまう恐れもあるため、責任の大きな職種になります。

また、新たな調達先獲得にむけた海外の資源開発への投資などのプロジェクトにも携わることができます。

鉄鋼業界の展望

この項では鉄鋼業界の現状について解説します。鉄鋼業界が置かれている状況を客観的に把握して、キャリア選択の参考にしてください。鉄のトンネル

‌台頭する中国

鉄鋼業界における最大の懸念点は中国企業の動向です。中国は経済発展に伴い、鉄鋼の生産量を急激に拡大しました。そして、非常に安価で輸出するようになり、鉄鋼製品の価格が低下。日系企業に大きな打撃を与えました。現在は中国政府が余剰生産能力の減少に動き、中国企業の再編も進んでいます。

‌また、日系メーカーが得意としてきた高付加価値の鉄鋼製品を中国メーカーも徐々に製造できるようになってきています。対する日系メーカーも競争力を維持するために技術開発やM&Aによる規模拡大を積極的に行っています。

‌最大のライバルになりうる中国の動向は今後も注視するしていく必要があるでしょう。

‌原料価格の変動

鉄鋼の製造にあたって、原料である鉄鉱石と石炭の確保をほとんど輸入に頼っています。

‌原料の価格は近年、原産国の天候や中国の調達状況によって大きく変動しており、鉄鋼製品を安定した価格で提供するうえで大きな支障になりかねません。

‌鉄鋼各社は安定的な原料調達に向けての対策が必要になります。

人口減少に伴う内需縮小

少子高齢化に伴い日本の人口は縮小し続けている状態です。

このまま人口減少が進めば、鉄鋼の内需もそれに伴って縮小していくと考えられます。
‌そのため、海外の輸出を増やしていく必要性があります。
実際に、日本の鉄鋼業も内需のピークであった1990年代に比較して輸出の割合を伸ばしています。

しかし冒頭で述べた通り、中国が世界のマーケットの5割を占めているため、日本勢の拡大は容易ではありません。

鉄鋼業界の展望

日本の鉄鋼生産の約40%が海外向けであるなど、グローバルに仕事をしたい方には適した業界と言えるでしょう。

‌しかし同時に、鉄鋼業界は世界経済の影響を大きく受けるとも言えます。

‌先述した中国の動向や原料価格の変動といった国際経済の先行きは不透明な部分が多いというのが現状のなか、難しい状況下に置かれています。

‌メーカーに限らず、商社も不安定な状況を乗り切る戦略が求められることになるでしょう。

‌鉄鋼業界についてさらに理解を深めたい方へ

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鉄鋼メーカーについて知ろう

ここまで鉄鋼業界の構造について解説してきました。鉄鋼製品が製造されてどのような流れで顧客渡るのか、理解していただけたかと思います。

‌次回は鉄鋼業界で非常に大きな役割を果たす、鉄鋼メーカーについて解説します。世界を舞台に事業を展開している鉄鋼メーカーについて正しく把握し、業界への理解をさらに深めてください。

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